330人が本棚に入れています
本棚に追加
女に興味がないわけではない。けれど、どの女も兄ほどの魅力は感じない。ただあのときの兄を思い出すだけで、自分が兄にされていると思うと、ひどく興奮した。
その後も兄は部屋に連れ込んでは女とヤッていた。決まって部屋から漏れ聞こえるのは、女の喘ぎ声で、兄の声はまったく聞こえることはない。きっとあのときのように表情ひとつ変えず、女を抱いているのだろう。ただ、自分の性欲を満たすだけに、腰を穿っているのだろう。それを想像するだけで、自分は滾った。
情事の声が漏れ聞こえるたび、机に向かっている要は勉強している手を止めて、熱く滾った自身を力任せに扱いた。脳内を凌駕するのは、決まって兄の姿だ。そして、脳内では兄に侵されている自分を思い浮かべる。
そして手の中に吐き出した自身の白濁した液を見つめながら、いつものように背徳感に浸る。
(なに、してんだ)
自分の性的興奮の方向性は、救いようのないくらいに狂ってしまった。
兄と一緒にいる時間が昔のように今もあったのならば、自分はこれほど歪むことはなかったかもしれない。薄々気づいていた。自分は兄が好きだということに。
この感情は間違いなく兄弟の域を超えているものだ。
もちろん、血の繋がった血縁者に好意を抱くことの禁忌はわきまえている。兄を抱かれるためだけに家にやってくる女たちを心のどこかで軽蔑していた。自分より格下の汚い女たちが兄に抱かれている事実。また、自分はそれが叶うことがないことも事実。自分が血縁者でなければ、あの女たちのようになれた可能性を秘めていた。
――兄はこの先、決して自分のものにはならない。
好きな気持ちと、そうあってはいけないという血縁のバランスだけが自分を制御している。表面上は平成を装った兄弟のまま、兄徹、高校三年、弟要、高校二年の冬を迎えようとしていた。
最初のコメントを投稿しよう!