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第2章:その関係に気づいて
そして、その日、要は真実を知ることになった。
要が学校から帰ると、誰もいないリビングの上に無造作に書類が置かれていた。
母は自分たちが高校生になったころから惣菜屋のパートを始めていた。家計は特に不自由していない様子だったが、父が単身赴任だったのもあって、人恋しくなったのだろうと特に気にもしなかった。
(急いでたのかな。散らかしたままじゃん)
広げられていたのは役所の書類らしかった。どうやら兄の名前になっている。母が取り寄せたのだろうか。
なにげなく目に留まった両親の欄を見て、違和感を覚えた。
(母の名前じゃない?)
そんなはずはない、と動悸が激しくなる。兄の父親の名前は合っている。ただ母親の名前が違う。
震える手でポケットからスマホを取り出す。兄と両親の名前が明記された箇所をカメラで撮影する。無機質なシャッター音が部屋に響いて、そのまま自分の部屋に向かった。
部屋の扉を閉めて、ひと呼吸を置いてアルバムから先ほどの写真を検索する。やはり、兄の母親の欄は、自分の知っている母親の名前ではなかった。
平凡な家庭だと思っていたのは自分だけだったのだろうか。確かめるまでは落ち着かない。
要は、母が帰ってくるのをじっと待った。
「ただいまー」
一時間ほどしてからだろうか。母が帰宅した。リビングに母が向かったのを見計らって、その背を追いかけた。
「徹、いないのー?」
母は兄を呼んでいたようだった。部活でまだ帰ってきていないのだろう、兄はいない。
「母さん」
「あら、要は帰ってたのね」
「テーブルの書類、何?」
「えっ」
時間をかけるものではないと思ったので、すぐに聞くと、母は一瞬で顔を曇らせた。
「ああ、あれはね、お兄ちゃん、大学の推薦受けるっていうから、必要書類をもらってきたのよ」
その手は慌てて書類をおいてあった封筒にしまいこもうとしていたが、動揺しているせいなのか、折れてなかなか入らない。
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