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「その書類見ちゃったんだけどさ、兄ちゃんの母親の名前」
「要、その話はまた今度にしましょう」
「なんで隠すの? こういうことがなかったら言わないつもりだったの?」
きっと自分の顔は、怖いくらいに冷静で無表情だったんだと思う。だから母もごまかせず、観念するしかなかったのか、ふぅーとため息をついた。
「隠しててごめんなさい。私とお父さんは再婚同士なの。あなたは私の連れ子で、徹はお父さんの連れ子で二人には血のつながりがないの」
「は……?どういうこと、なんで今まで」
「あなたはまだ小さかったから……このまま知らせないでもいいかもしれないってお父さんと」
「兄ちゃんは?知ってるの?」
「……知ってるわ」
目の前にいる母親は自分の生みの親で、父親は一緒に暮らしている人ではない。
そして兄の父親は一緒に暮らしている父親で、母は知らない人である。
その事実を、自分だけが知らなかったのだ。
「ふ……っざけんなよ。なんで俺にだけ黙ってたんだ」
「ごめんなさいっ! いつか時期が来たら……」
「話すつもりなんてなかったくせに!」
「やめろ、要」
思わずこぶしを振り上げた瞬間に背後から兄の声がした。ちょうど兄が、帰宅したようだ。
「おまえ、その手で、母さんを殴るつもりなの?」
「は? この人のこと母さんなんて呼んで、兄さんとは血のつながりないじゃないか」
「要、やめなさい」
「うるさいな! そもそも兄ちゃんと俺がもっと早く他人だってわかってたら!」
「だったら、なんだ」
「うるさ……」
自分が反論するより早く、兄のこぶしは自分の頬に直撃していた。体が吹き飛ばされて、台所の床に強く体を打ちつけた。
「要……!」
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