第2章:その関係に気づいて

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 今まで反抗期なんてものはなかった。  兄とも両親とも仲が良かった。家庭は円満だった。なんの問題もなかった。だから些細な事が大きな事に思えた。実の父と兄と血のつながりがないなんて、決して些細な事ではないけれど。  それから、この件については家族の誰も、触れなかった。自分もあの日取り乱して以来、言及することもなかった。  あの日、兄に殴られ蹴られたのは、母を気遣ってなのだろうと冷静になって気づいた。自分のことだけを考えて取り乱した自分に比べて、兄は冷静に判断していたのだ。結局幼く浅はかだったのは自分だけだった。  そして、あれ以来、兄とは口をきかなくなった。もともと口数の少ない兄だったが日常会話以外で話すことはなかった。  母から兄が東京の大学に決まったと聞いた。春からの新生活のためか、母と一緒に上京して家を探すなど準備が始まった。以前より部屋に女を連れ込む回数も減り、自分も兄で自慰行為をすることもなくなった。  こんな風に兄とますます距離ができてしまったのに、自分の気持ちが離れたわけではなかった。『血のつながりがない』ということが、自分の心に新たな火を灯した。血縁者であることが、自分にとって最後の砦だったのに、あっさりとその砦は破られた。兄と自分を隔てるものは、何もない。  あんな格下の女たちなんかより、自分のほうが兄のそばにいる権利があるはずだ。兄を想う気持ちだけは誰にも負けない。すべての人が兄を罵倒しても自分だけは兄を認めている。  ただ、自分から、ひとことも話せないだけで。  そうして兄と関係を修復できないまま、上京前夜を迎えた。
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