内鵜仁(一)

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 この屋上にやってくるには、あの重い、ギシギシと鳴る鉄のドアを通ってくる必要があった。後から入ってきた者がいれば、気づかないはずがない。  ひょっとして、夕陽を眺めて考えごとをするのに夢中で気づかなかっただけなのか?  だとしたら、オレとしたことが不覚だった。  何にせよ、この男が何者なのか? いま振り向いても大丈夫なのか?  まさか変質者で、顔を見た瞬間に刺してきたりしないだろうな?  わかった。不正をして一位を取った奴に違いない。オレをつけてきて、二人っきりになったところで自慢をしようなんて思ってるんじゃないだろうな?  くそお、なんて卑劣な奴なんだ。徹頭徹尾、根性の腐った野郎だ。  いずれにしても、このまま奴を無視したままでいるわけにはいくまい。こういう奴は何をしでかすかわかったもんじゃないからな。いまは自分の身の危険を回避する最大限の努力をせねば。  よし、三つ数えたら振り向くぞ。  深呼吸。すううう。はあああ。  一、二、三、うおら!  ん? おっさん? 年齢は……三十代中盤から四十代前半ってところだろう。  ううん、あんな先生いたかな? そもそも先生があんなだらしない恰好で……  そうか! 工事のおっさんか。裾の広がったねずみ色の作業着を着てるしな。     
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