内鵜仁(一)

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内鵜仁(一)

 昔々、あるところに浦島太郎という青年がおったそうじゃ。  太郎は乙姫と死ぬまで仲よく暮らしたそうな。 ----------------------------------------------------  錆びついた重いドアが不快な音を立てる。そのドアを通り抜けると、目の前には誰もいないコンクリートジャングルが広がっていた。  ここは夕暮れどきの校舎屋上。オレは手すりに身体をもたせかけ、ひとり黄昏れている。  ここは避雷針や水道のタンクがあるだけ。なんとも殺風景だ。こんなところに好きこのんで来る者など、オレの他には誰もいない。  だからオレはこの場所が好きだ。ひとりになりたい気分のときは、必ずここに来る。  いまはまさに、その『ひとりになりたい気分』の真っただ中だった。 『片瀬海岸高校 二年生中間テスト成績 二位 内鵜仁』  最初は何かの間違いじゃないかと目を疑った。  自慢じゃないが、オレはこの県内でも有数の進学校に入って一年半、『試験』と名のつくもので一番以外を取ったことがない。今回の試験も決して悪い感触ではなかった。  だのに、なぜだ?  一位のやつは何か不正を行ったに違いない。     
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