93人が本棚に入れています
本棚に追加
/267ページ
迫る静留さんの威圧感から逃れるため、窓の外に目を向ける。
今日は天気がよく、庭にある木々を揺らして風が吹き込んできた。
青々とした緑の匂いと土の香りを胸に吸い込み、首筋に掻いた冷や汗を拭う。
今日は少し蒸し暑い。
生暖かい風を感じていると、ふと太陽君の話を思い出した。
彼女も昔はこの喫茶店で暮らしていたのだ。
そのことに気づき、私は静留さんの正面に立ちはだかった。
「まだ、食べさせるわけには行きません。いえ、魔法のランチはここで食べることはできないんです」
なにを言い出すのかと静留さんは言いたげだった。
傍らの父も不安そうに私を見ている。
鉄平君は言っていた。
本当の卵サンドの味は、太陽君と静留さんにしか分からないと。
魔法のランチは、ここにいたままでは【本物】にはならない。
「今回の魔法のランチは出張版です!」
私は厨房に聞こえるように声をはりあげてそう告げた。
最初のコメントを投稿しよう!