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「――相変わらず、きついなぁ」
急な坂道を歩いていると、昔のことを思い出す。
子供のころから体力がなかったせいで、この坂を登ることはほとんどなかった。
千光寺に行く時は絶対にロープウェー派だ。
そんな私が唯一坂を登るのは喫茶オズに行く時だけだった。
あの喫茶店は私にとって、大切な料理と大切な人と出会った思い出の詰まった場所だ。
あそこに行くきっかけを藁島が暮れたのだと思えば、藁島太陽と出会ったことも少しは良かったと思えてきた。
坂を半分ほど登ったところで細い横道に入り、歩いていく。
喫茶店はこの小道の先にある。
何年たっても足が自然と道を覚えていたようで迷いなく歩いていると、門が見えてきた。
苔の生えた木製の門にかかっている看板には、青いペンキで【喫茶OZ―オズ―】と書かれている。
門をくぐり、庭に足を踏み入れたとたん、懐かしい光景に目を奪われた。
木漏れ日が当たる度に光を放つ、露で濡れた飛び石や芝。
庭の片隅に見えるのは、ローズマリー、ラベンダー、タイム。
湿った土や緑の香りが、足を進めるたびに体を包み込んでいく。
景色も匂いも、風さえも、あの頃と何も変わっていない。
左右に茂る木々の間を歩いていくと、蔦の絡まる古民家が現れた。
懐かしい建物を見た瞬間、ようやく故郷に帰って来たと実感し、胸に迫るものを噛みしめる。
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