一皿目・魔法の卵サンド

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「――ドロシーちゃん、早くおいでよ」 庭を見回しながら歩いていると、すでに喫茶店の入り口にいた藁島に手招かれた。 懐かしさを噛みしめながら喫茶店に近づくと、年季の入った引き戸を藁島が開いた。 立て付けの悪い戸の揺れる音に重なり、ドアベルが鳴り響く。 戸が開いたとたん、店内から流れ出てきたコーヒーの香りが鼻腔をかすめた。 古民家を改装して作られた店内も、昔と変わっていない。 入口である土間から店内へ土足で上がると、すぐ右側にバーカウンターがある。 背の高い丸椅子が三つ並んだカウンターの向こうはレジとなっており、昔はここに店主である西ばあがいた。 「いらっしゃい――なんだ、太陽君か」 いつも西ばあが座っていたレジにいたのは、従業員らしき男性だった。 客を笑顔で迎えてくれた従業員は、藁島の顔を見ると眉を下げ露骨に残念そうな顔をする。 年は三十代後半くらいだろうか。 はっきりした顔立ちだが、困った表情のせいでどこか気弱そうだ。 たれ目で背は高く、体の線は細い。 一言でいうと気弱な優男といったところだ。 白いシャツに黒いチョッキにボウタイ、揃いのズボンの上からはひざ下まであるエプロン。 服装を見る限り喫茶店の従業員のようだが、尾道にいた時に彼のことは見たことがない。 「あからさまにがっかりするなって。お客さんを連れてきたんだからさ。――俺の同級生のドロシーちゃん。東京から帰郷してきたんだって」 藁島はスーツケースを玄関の隅に置き、店内に上がる。
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