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「んで、こっちは三十六歳バツイチ子持ち、アラウンドフォーティの獅々田さんね」
藁島はクーラーボックスをカウンターに置くと、従業員の男性――獅々田さんに立てた親指を向ける。
「その紹介の仕方はやめてくれって、いつも言ってるでしょう。まったく」
獅々田さんは困ったようにため息を吐いて、いそいそとカウンターから出てきた。
「初めまして、獅々田虎次郎です。この喫茶店でバリスタをしています。僕がここで働き始めたのが五年前なのですが、椎奈さんとは入れ違いになったのかな?」
「はあ、そうみたいですね」
手を差し出され、戸惑いながらも私は彼の手を握った。
軽く握手をした後、獅々田さんは店内に目を向ける。
「今、お客さんもいなくて暇をしてましてね。丁度、ラテアートの練習をしていたんですよ。よろしければ、お好きな席に座ってゆっくりしていってください。おすすめは窓際の庭が見える席で、あちらの――」
「あ、分かります。あの席ですよね」
窓際の席を私が指さすと「さすが地元っ子ですね」と、獅々田さんは楽しそうに笑う。
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