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「あ、そうだ。言い忘れてたけど、この喫茶店はスマホも携帯電話も禁止だから。ほら、雰囲気壊れるからさ。それに、窓から見える庭と尾道の街を楽しんでもらうのに、文明の機器は必要ないっしょ?」
立ち去ろうとしていた藁島が振り返ってくぎを刺すように言う。
頷いたものの、お前が言うなとツッコみたい気持ちがのど元まで出かかった。
解せない思いを噛み殺しつつも、思い出の味が食べられることが嬉しくて、そんな言葉はすぐに吹き飛んだ。
西ばあ特製の卵サンド――。
喫茶オズの名物料理は、食パンに卵焼きを挟んで作るシンプルな料理だ。
まるでプリンや茶わん蒸しのようなきめ細やかな卵焼きと、特製の手作りマヨネーズソース。
食べた瞬間に崩れた卵焼きがソースの染み込んだ食パンと混ざりあう、あの食感。
口に広がる卵やパン、マヨネーズソースの絶妙な香り。
思い出しただけで、よだれがしたたり落ちそうになる。
一度食べたら忘れられない。
食べた瞬間、幸せが口に広がる料理。
誰もが卵サンドを食べると笑顔になった。
オズで卵サンドを食べて千光寺でお参りをすると、願いが叶う。
いつしかそんな噂も広がり、卵サンドを食べにこの喫茶店を訪れる人がいたくらいだ。
勇気を出したいとき、西ばぁがいつも作ってくれた卵サンド。
ここに来たのもまた魔法をかけてもらうためかもしれない。
そしてもう一つ、喫茶オズの名物がある。
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