一皿目・魔法の卵サンド

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期待をしながらメニューの最後のページを開くと、黒マジックで大きな×印が引かれていた。 ×印で消された料理名は【魔法のランチ】。 これこそが、オズの魔法使いが作る魔法の料理だ。 残念なことに、どうやら今はやっていないようだ。 名物が一つ消えていたことに肩を落としていると、藁島の声が料理を運んできた。 「お待たせしました、喫茶オズ特製卵サンドでございマース」   期待に胸を膨らませた私の前に、一皿の料理が出される。 「え?」 その料理を見て、私は思わず目をこする。 一口大の長方形に切った白いパンに挟まる、真黒な物体。 これが卵焼きなのだろうか。 かろうじて黄色い部分が残ってはいるが、卵の面影をほとんど感じない。 五千歩ゆずって、見た目よりも味が肝心だ。 もしかしたら、今は香ばしさを売りにしているのかもしれない。 そう自分に言い聞かせながら、卵サンドにかぶりつく。 「……おいっ、しくない! めちゃくちゃまずい!」   口の中に広がる苦みと焼け焦げた卵のぼそぼそした食感に、思わず吐き出しそうになる。   あまりの味に絶叫すると、藁島は指を鳴らして卵サンドの皿を持ち上げる。 「正解っ! まずいのよ、これ」   こんなまずいものを客に出しておいて、軽すぎるこの男のノリに苛立ちが募る。 それ以上に、これはオズの卵サンドに対する冒涜だ。 無残な卵サンドを前に、平然としていることが信じられない。 私の大好きな喫茶店は一体、どうなってしまったのだ。 料理長の顔を見てやらなければ、この気持ちは収まりそうにない。 「ちょっと、失礼!」 息巻いて立ち上がった私は、カウンターに入り込み獅々田さんを押しのけた。
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