一皿目・魔法の卵サンド

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「あれ、知り合い?」   見つめあう私たちの間に、藁島が割り込んでくる。 「知り合い……って、ほどではないけど、顔ならよく知ってる。元天才料理少年として、たまにテレビに出てたから」 銀山鉄平と言えば、昔はちょっとした有名人だった。 子供の頃にテレビに出演していた彼のことを、今でも覚えている人は少なくないだろう。 特に当時、料理人を目指して彼に憧れていた子供ならなおさらだ。 「へぇ、そうなの?」 「昔の話だ」   冷たく答えた銀山鉄平――鉄平君は、ふたたび漫画を顔にかぶせようとする。 その前に、彼から漫画を取り上げた。 眠りを妨げられて不快そうに眉間にしわを寄せる彼を、私は見降ろす。 彼には聞きたいことがたくさんあった。 その中でも、最も知りたいことを尋ねる。 「天才少年と謳われた貴方が、本当にあんなにまずい卵サンドを作ったの?」 「いや、あれを作ったのはこいつじゃないよ」  鉄平君の代わりに応えたのは、藁島太陽だった。 藁島は鉄平君の隣に立つと、彼の肩に手を置いた。 「銀山鉄平は料理をしない料理人になったんだよ」 彼の言葉に頭を鈍器で殴られた気分だ。 大好きな喫茶店も大切な人もすっかり変わってしまったらしい。   まるで私の大切な思い出が、苦い焼け焦げた卵サンドのように台無しにされたようだった。
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