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瀬戸内の穏やかな海と坂の町――尾道。
私がこの町に帰ってきたのは、母親に会うためだった。
高校の卒嬢と共に故郷を離れて5年後、里帰りはほとんどしていない。
久しぶりに帰郷した時には既に母親は棺の中。
坂道聖子は50歳を目前に生涯の幕を閉じた。
最後に話したのは、確か失業した去年のクリスマスに電話がかかってきた時だっただろうか。
就職先が決まってから連絡しようと思っていたが、とうとう間に合わなかった。
葬儀の参列者全員が嗚咽を漏らして涙している中、突然の別れに私はただ茫然としていた。
葬儀が終わった夜、ふいに流れた涙を見て私はようやく母の死を痛感したのだった。
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