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残念なことに、その魔法使いは喫茶オズにもういない。
どうするのかと藁島を見ると、彼も困ったように頭を掻いている。
「ごめんなぁ、お嬢ちゃん。今は魔法のランチはやってないんだよ」
「そう、なんですか」
藁島の言葉に、彼女は表情を暗くする。
背を丸め、伏せた目から涙でもこぼしそうだ。
よほど魔法のランチが食べたかったのだろう。
気の利いた言葉を探すが、なにも思いつかない。
そわそわと辺りに目を泳がせていると、獅々田さんが彼女に笑いかけた。
「田村、愛花ちゃんですよね? 前に何度かここで魔法のランチを注文したことがあるでしょう?」
「覚えているんですか?」
「もちろんです。貴女のことは真理子さんがずいぶん気にかけていましたからね」
彼女はこの喫茶店の常連さんのようだ。
「へえ、ばあちゃんのお得意さんだったわけか。それで、いつも魔法のランチを?」
藁島が聞くと、彼女はうなずいた。
「私、小学生の時からバレーをやってて、試合の前にはいつも西ばあにスフレオムライスを作ってもらってたんです。ふわふわで、ちょっとピリ辛のドライカレー入りのやつ」
はきはきと芯のある声で愛花ちゃんは言った。
彼女からは先ほどまで纏っていた暗い雰囲気を微塵も感じない。
「西ばあが亡くなった後、お孫さんが喫茶店を継いだと聞いていました。魔法のランチはやめちゃったって、しかも、新しいオズの料理はものすごくマズイって噂も知ってました。だから、これからは料理に頼っちゃダメだって思ってたんです」
最近の女子高生というのは、なかなか辛辣なようだ。
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