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「まずいって噂って、やっぱりそんなに有名になってんのかよ……」
項垂れた藁島に、容赦なく愛花ちゃんは頷く。
「クソまずいってみんな言ってます。魔女の呪いがかかってるんじゃないかとか、馬鹿な放蕩孫が土地を奪うためにわざとクソまずい料理をだしてるとか、みんな噂してます」
「いや、馬鹿な放蕩孫って俺のことだよね? よく本人の前でそれ言えたね。まっすぐな目をして、アンタ結構毒舌だね」
真面目な顔で力説された藁島は、泣きそうなのか目頭を押さえている。
本当のことでも、面と向かって言われるのは嫌みたいだ。
落ち込んだ藁島を見かね、獅々田さんがカウンターから出てきた。
「もしかして、近々バレーの試合があるんですか?」
「いえ、そうじゃないんです」
愛花ちゃんは首を振る。
うつむいて黙り込んだ彼女に、藁島と獅々田さんが顔を見合わせた。
助ける様な目で目配せした藁島に、獅々田さんが人のよさそうな笑みを向ける。
「……よろしければ、カフェラテでもいかがですか? せっかくここまで来てくれたんですから、飲んでいってください」
穏やかな獅々田さんの声に愛花ちゃんの思いつめた表情が少し和らぐ。
ようやく顔を上げてくれた彼女を獅々田さんは私の座る前の席に案内した。
窓の方を向いて座った彼女の横顔を見ていると、このまま空に浮かんで行ってしまいそうで不安に駆られる。
獅々田さんが運んできたカフェラテを一口飲んだ彼女を見て、私は安堵した。
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