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「すごく子供っぽいんですけど……。あの、友達と喧嘩して。と言っても、喧嘩したのは去年のことで。でも、今年で高校卒業しちゃうし、その子は県外に進学する予定で、部活も辞めてしまって――」
カフェラテを飲んで落ち着いたのか、愛花ちゃんはゆっくり話し始めた。
先ほどとは違い小さくしぼんだ声に、私は耳を澄ました。
「時間が経てば、自然と仲直りできるかなって思ってたのに、三年生になったら、受験のこととかいろいろ忙しくて。どんどん距離が出来ちゃって」
小さなきっかけが、人と人との距離が出来てしまう。
気づいた時には取り返しがつかなくて、後悔だけが胸にしこりとなって残る。
人間なんていつ会えなくなるのか、誰も分からない。
そのことに、私も最近ようやく気づかされたばかりだ。
「だから、私から謝る勇気がほしいんです。これ以上、無駄に時間を過ごしたくないから。私にとって、西ばあのスフレオムライスが魔法のランチなんです。あのスフレオムライスを食べたら、彼女にちゃんと気持ちを伝えられると思うんです。だから――」
愛花ちゃんはうつむき、言葉を詰まらせた。
この少女は私よりもずっと大人だ。
大切なものを失わないために、後悔しないために小さな勇気を出そうとしている。
あんなにか細く聞こえた声に、胸が震えた。
顔をあげた少女の眼差しは輝きに満ち、まるで波立つ水面のようだ。
穏やかだが豊かな瀬戸内の海によく似ている。
瞳の中に満ちた勇気を使う手助けをしていたのが、西ばあのスフレオムライスなのだろう。
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