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あれから一週間。
桜も散り梅雨の季節も終わりを告げる七月初旬。
葬儀の日は雨だったが、今日は快晴だ。
青い空を見つめながら、今年は蒸し暑くなりそうだと私は眩しい日差しに目を細めた。
「駅まで送ってかなくて大丈夫?」
商店街を抜けた先にある坂の前で、ぼんやりしていた私は聞こえた声に振り向いた。
道路わきに止めたトラックから降りてきたのは、兄嫁の乃花さんだ。
彼女は軽トラックの荷台から、私のスーツケースを降ろしている。
小柄な体で大きなスーツケースを持ち上げる彼女から、慌ててそれを受け取った。
「うん、ここで平気」
「それじゃあ、元気でね。また、いつでも遊びに来て。正信も喜ぶから」
真ん丸な瞳を細めてほほ笑み、彼女は私の両手を握り締めた。
爽やかなこの笑顔は、ショートカットで活発な彼女によく似合う。
母親が亡くなり落ち込む私と兄を献身的に支えてくれた彼女は、私にとっては実の姉のような存在だった。
優しくやわらかな手はどこか母を思い出し、私は彼女の手を強く握り返した。
「ありがとうございます、乃花さん」
私の手を離した乃花さんが軽トラックに乗り込む。
窓を開け「気を付けて!」と手を振りながら、彼女は去っていった。
「――西ばあ、私はどうすればいいのかな?」
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