93人が本棚に入れています
本棚に追加
「鉄平の許可も出たことだし、よろしくね、ドロシーちゃん。――そうだ、料理を作るんならエプロンとかいるんだよな。ちょっと待ってて。確か、ばあちゃんが使ってたやつがどっかにあるはずだから」
楽しそうにどこか浮足立ちながら、藁島が二階にあがっていった。
「では、厨房へ案内しますね」
「はい! よろしくお願いします」
私はお辞儀をして獅々田さんと共に厨房へ向かった。
気のないことを言っていた鉄平君も私たちの後について厨房に入ってくる。
なにをするのかと思えば、彼は迷うことなく厨房の隅にある椅子に座り、マンガを読み始めた。
本当に彼は料理をする気がないようだ。
「……あの、鉄平君」
呼ぶと、漫画から視線を外して彼は私を見た。
眉間には深いしわが寄っているのが、名前で呼んだのが気に食わなかったのかもしれない。
小学生の頃から大人びていたが、こんな渋い表情をするような子ではなかった。
良く思われていないのは明らかで、少し傷つく。
「私のこと、覚えてない? 一度、この喫茶店で会ったことがあるんだけど」
尋ねるが、鉄平君は黙ったままだ。
そこへ、いつの間にか二階から降りてきていた藁島が口をはさんでくる。
「――お前この喫茶店に来たことあんの? だから作れたのか」
厨房へ入ってきた藁島に、白いフリルのついたレトロなエプロンを渡される。
私は彼の言葉の意味も気になったが、それ以上に鉄平君があの時のことを覚えていないことにがっかりした。
最初のコメントを投稿しよう!