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「ホントにっ?」
てっきり忘れてしまったと思っていた私は、思わず大きな声で聴き返した。
「見るからにドンクサそうで、鼻水たらしながら卵サンドを食べてた女のことならしっかりと覚えてる」
「そこ、なんだ……」
喜んでいいのやら、恥ずかしいやら。
複雑な心境になりながらも、頭の片隅に記憶してくれていたことはやはり嬉しい。
「あの時、一緒に話したことは覚えてない? 鉄平君、フランスに行って料理人になるのが夢だって私に話してくれたよね? それで、私も料理人になりたいって言ったら頑張れって言ってくれてさ」
「そんなこと、話したっけ?」
そっけなく返事をし、鉄平君は再び漫画を読み始めた。
心なしか、眉間のしわが三割増しになった気がする。
こちらの様子を気にもとめない姿に、ふと疑問がよみがえった。
「ねぇ、本当に料理を作らないの? フランスに渡って修行してたんでしょう? 確か、十六の時だったよね。私、テレビで見ててすごいって――」
「うるさい、黙れ。お前には関係ないだろ」
視線を下げたまま、鉄平君は語気を荒げた。
どうやら彼の怒りに触れてしまったようだ。
拒絶するような視線を向けられると、怖いと思うよりも先に嫌われてしまったということに落ち込んでしまう。
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