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「人それぞれ事情があるんだ。そうやって無遠慮に踏み込んでくるな。あのカカシ頭の藁島ですら、そんなことはしないぞ。お前はカカシ以下だな」
「カカシ、以下……」
「ドロシーちゃん、そんなに落ち込まれるとこっちが落ち込むんだけど」
唇を尖らせた藁島の隣で、私はうな垂れる。
「さっ、さあ、気を取り直して料理をしませんか? 時間がありませんしね」
明らかに士気の下がった私と藁島を見かねたのか、獅々田さんが手を叩いて鼓舞する。
彼の言うとおりだ。
落ち込んでいる暇などない。
私は藁島が用意してくれた白いエプロンを着た。
胸から膝まであるエプロンは昔、西ばあが着ていたものと同じだ。
懐かしい記憶が詰まったエプロンをまとうと、子ども時代の思い出がより一層蘇るようだった。
手を洗い、準備万端で料理をしようとしたが、肝心のレシピが分からないことに気づく。
「作るにしても、西ばあはあの子にどんな料理を出していたんだろう? スフレオムライスって、最近結構オシャレなレストランやカフェで見かけますよね。確か、メレンゲ入りの卵液をご飯にかぶせて焼いた料理だったような」
私が働いていたレストランはフランス料理店だった。
フランスのモンサンミッシェルでは、メレンゲ状にした卵を焼いて作るスフレオムライスがある。
そういうものに近いとは思う。
問題は下に敷くごはんの味だ。
確か、カレー味と愛花ちゃんは言っていた。
少しぴり辛のカレーピラフ。
それをおおうふわふわ卵。
戸棚にある食器を確認しながら頭を捻る。
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