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私はもう一度、レシピを確認する。 西ばあが長年書き溜めていたレシピノートをぱらぱらとめくり、スフレオムライスのページを開いた。 レシピには完成図として色鉛筆でイラストが描かれている。 西ばあが描いたものだろうが、なかなか達者なイラストだ。 ふっくら黄色いフォルムのスフレオムライスのイラストの下にある文字を、私は読み上げる。 「しゅわしゅわとろとろ、半熟オムレツよりもふんわりとろける食感、か……」 奇跡を信じて、私は焦げた表面にスプーンを差し込む。 「ゆで卵みたいな弾力に、いり卵みたいにぼそぼその食感……」 全くの別物。 明らかに失敗作だ。 料理の腕は中の中で上手くも下手でもないが、レシピ通り忠実に作ることくらいできる。 どこで間違えたのだろうか。 レシピを最初から見直してみるが、やはり間違っていない。 「なんで、どうして? なにがおこったの? オズの魔法使いの呪い?」 混乱してレシピを手に立ち尽くしていると、背後から鉄平君の声がした。 「そのレシピは先代が自分用に作ったものなんだろ。自分が読んで、思い出すきっかけにするためのものだ。他人が読むためには作ってないってことだ」 興味がないと思っていたが、どうやら私たちのことを見ていたらしい。 いつの間にか彼の手元には漫画がなくなり、腕組みをしている。 「それに、調理道具はそれぞれに【クセ】があるんだ。一朝一夕で完璧に使いこなせるようなものじゃない」 確かにオーブンの質だけではなく、位置や気温でも焼ける時間は変わってくる。 ここにある調理器具は、かなり年季の入ったものばかりだ。 長年、西ばあに連れ添ってきた道具たちは少々気難しそうではある。
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