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「一通り調理過程を見ていたが、アンタにはまだ作れそうにないな。明日までにその料理を作るのは無理だ」 鉄平君は馬鹿にしたよう鼻で笑う。 悔しくて唇を噛む私をよそに、藁島はなぜか驚いたように目を丸くしていた。 「――お前、ちゃんと見てたんだな」  感嘆するように言った藁島に、鉄平君は緩めていた口元をへの字に曲げる。 「別に、目の前で動いてるものが自然と目に入っただけだ」 「あっそ、じゃあ勝手に目の前で作らせてもらいますよ、おフランス帰り様」 嫌みったらしく言いながら、藁島は鉄平君の頭に肘をおいた。 それを鉄平君は素早く払い退ける。 がくっと体制を崩した藁島だったが、なにか思い出したように「そうだ……」と言って、私たちに背を向けた。 彼はいそいそ厨房の奥に向かったかと思うと、何かを手に戻ってくる。 「練習するなら、幾らでもしてくれ! 卵なら、まだまだあるからな」 藁島は持ってきた段ボールをドサリとテーブルに置いた。 段ボールの中に入っているのは大量のパック詰めの卵だ。 しかも、背後に目をやった先には、その箱はまだ二箱もある。 こんな赤字の喫茶店でこの量は多すぎだ。 噂になるほどまずいと有名な料理を頼む客なんて、そうそういないだろうに。
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