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「……太陽君、また発注ミスですか?」 段ボールを覗き込んだ獅々田さんが呆れた表情で言った。 「いやあ、一昨日はカープの試合が熱くてさぁ、連敗脱出なるかって試合で、初回から一気に四点! そっから攻めに攻めた上に、先発もなかなか良くて最終的には完投! 大勝で連敗脱出! それでさぁ、喜びすぎてついつい手が滑ってしまいました! ……というわけで、当分はまかないも卵料理なんで、よろしく!」   あっけらかんと悪びれる様子もない藁島に、獅々田さんはため息をついた。 獅々田さんの諦めきった表情から、これがこの喫茶店の日常なのだと察する。 「また卵かけごはん週間か……」と、鉄平君がポツリとつぶやいた。 「レモン週間よりはましだな」 続けて聞こえた恐ろしい言葉に口が酸っぱくなる。 自然と唇をすぼめながらも、私は目の前の卵に手を伸ばした。 この卵がなくなる前になんとか完成させなければ。 「私、もう一度作ってみますね!」 「その意気だ、ドロシーちゃん。ガンバってー!」 気の抜けた藁島の応援を受けながら、私はスフレオムライス作りを再開する。  それから日が傾き始めた頃まで休むことなく私は卵を割った。 けれども、オーブンから出てくるのはしぼんで焦げたものばかり。 積み重なる卵の殻と失敗したスフレオムライスの中で、とうとう力尽きた。
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