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「もう、卵なんて一生見たくない……」 ひざから崩れて調理台に倒れ込むと、頭上からのんきな声が聞こえてきた。 「ドンマイ、ドンマイ! 見た目はあれだけど、食べられないわけじゃないし。なあ、獅々田さん」 「そうですね。これで、久々にまともなまかないが食べられます」 励ましてくれるのは嬉しいが、別にまかないを作っているわけではない。 喜々とした獅々田さんの声を聞く限り、まかないもそうとうまずいのだろう。 ほくほくと頬をゆるめた彼の顔を見ていると、彼の背後に座る鉄平君と視線が合った。 「へたくそ。火加減も見極められない半人前には、いつまでたっても作れないだろうな」   見下したように彼は目を細めた。 ずっと椅子に座って漫画を読んでいた人間に言われると、元憧れの人であろうと怒りがわいてくる。 「それじゃあ、鉄平君は作れるの?」 「当たり前だっ……!」 言いかけて鉄平君は片手で口を押えた。 視線を反らして明らかに「しまった」という表情をしている彼に、今度は私が目を細める。 怪しい――。 探るような視線を投げかけていると、藁島が鉄平君の胸倉を掴みあげた。 「鉄平、お前スフレオムライスの作り方が分かってるな?」 カカシ頭と鉄平君に表現された彼は典型的な直情型タイプだ。 険悪な雰囲気が厨房に立ち込める。 「だったらなんだ?」 悪びれる様子もない鉄平君は、藁島の手を振りほどいた。
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