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「やっぱりそうか! てめぇ、俺たちが悪戦苦闘している姿を見て笑ってたのかよ! お前に良心はないのか!」
「笑ってはいない。見下していただけだ。それに、勝手にそっちの女が受けた仕事だ。俺が教える筋合いはないだろう」
冷ややかな視線が私に向く。
正論なだけに反論できないのが悔しいが、何も言ってくれないのは薄情すぎやしないだろうか。
「この喫茶店の料理人なら、筋合いあるんじゃない?」
「ないね。そういう契約でここにいてやっているんだ。お前たちだけで作るんだな」
思い切って言い返したが秒殺されてしまった。
悔しい――というか、昔の爽やか料理少年だった鉄平君はどこに行ったのだ。
あれはよくある思い出補正とやらで、私が作り出した幻想だったのだろうか。
泡だて器を握りしめて悶々とする私の前で、藁島は私以上に苛立ちを露わにしている。
「鉄平、今日という今日は善人袋の緒が切れたぜ!」
「おしい、堪忍袋だよ太陽君」
「ええっ、そうなの?」
指をパチンと鳴らし、獅々田さんは悔しそうに顔をしかめた。
恥ずかしい間違いに藁島の頬が赤くなる。
なんだか、この二人は仲がよさそうで少し羨ましい。
そんな微笑ましい二人の前でも、鉄平君の表情は涼しげなままだ。
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