一皿目・魔法の卵サンド

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「……喫茶、オズ」 その文字に目を奪われ、思わず階段へ歩み寄る。 「プリン、いかがですかっ! 坂道のお供に手作りプリンはいかがですかっ! おっ、そこの男前のお兄さん、一個買っていかない? 彼女も喜ぶよ?」 彼はプリンを売っているらしい。 やる気がなさそうに座っているが、声ははつらつとして軽快だ。 ちょうど、坂をのぼろうとしていた一組のカップルに瓶詰のプリンを差し出し、愛想のいい笑みを浮かべている。 今から、縁結びで有名な千光寺にでも行くところだったのだろう。 男の風貌が怪しいためか、カップルは狭い階段をそそくさと登っていく。 その後ろ姿を、男は身を乗り出しながら見送っている。 「ちっ、なんだよしけてんなぁ。これだから、田舎者は……」 ようやく前を向いて舌打ちをする姿は、何とも柄が悪い。 喫茶店について聞きたかったのだが、不機嫌そうな顔つきを見て足が止まった。 「にしても、まだ七月に入ったばかりってのに暑いなぁ、クロ吉もそう思うよな?」 商品のプリンをクーラーボックスに戻し、男は傍にいた黒猫に向かって手を伸ばす。 黒猫は男に懐いているようで嬉しそうに手のひらにすり寄っていた。
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