一皿目・魔法の卵サンド

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運動神経皆無な私は小学生の頃から、体育の授業で常にみんなの足を引っ張っていた。 おかげで2人組になってくれる人もおらず、チーム分けは最後の一人。 負けた原因を押し付けられ、付いたあだ名は【ドンクサシイナ】短縮してドンシー。 最終的にあだ名は【ドロシー】に変わっていた。 どんくさドロシーと言われ続けた私だが、年を取るにつれてそんな子供っぽいことを言うやつも徐々にいなくなった。 だが、中学を卒業するまで呼び続けた男がただ1人いた。 「俺だよ、俺、俺!」 ――それが、この男だ。 背を向けられたことも気にせず、声をはりあげながら私の前に立ちはだかる柄シャツ男。 髪を掻き上げて顔を指し、猛烈なアピールをしてくる。 「藁島(わらしま)、太陽……」 「覚えてくれてたんだな! 久しぶりじゃん、元気にしてた?」 できれば忘れたかった。 馴れ馴れしく肩を組んでくるこの感じ。 相容れないこのノリ。 すべて、忘れてしまいたかった。 「そういえば、小学生のころ交通安全の授業で一人だけ自転車に乗れなかったのってドロシーちゃんだよね?」 「そうだっけ?」 鼻先が付きそうなほど顔を近づけてくる男から、私は顔を反らす。 「絶対そうだって! 十二歳にもなって乗れない奴なんているんだーって、びっくりしたの覚えてるもん」 今みたいに無神経に大口をあげて笑われたことなら、私もはっきり覚えている。 こういうデリカシーの欠片もない所は、昔から変わっていない。 彼には私のひきつった愛想笑いが見えないのだろうか。
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