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周囲へ目を走らせるが、上空のジェット機に目を奪われていて、こちらの方を見ている人は居ない。
今まで、人目のある、しかも明るい場所で、体をなで回された事などない。
でも、「初めての経験」である事を、みのりちゃんに知られたくなかった。
「大人」の余裕を見せたかった。
私は、みのりちゃんの手を押さえると、
「立ったままなんて、勿体ないでしょ。もっと、暖かくて、ゆっくりできるところに行かない?」
と、ささやいた。
みのりちゃんの手が止まる。
私の髪の毛に顔を埋めたまま
「涼子さんの部屋に行っても、いいんですか?」
と、ささやいた。
体の中を、熱いものがかけぬけていく感覚に、打ちのめされてしまいそうだ。
誰かに口説かれて、こんな気持ちになるのは、久しぶりすぎて、目眩がしそうだった。
ここで、負けちゃ駄目よ、涼子。
「どうしようかしら・・・誰かさんと違って、部屋は綺麗だけど」
嫌みっぽく言ったつもりだったけれど、声がうわずりそうになっていた。
みのりちゃんが、たたみかける。
「もしかして、私の為に、今朝、片付けしてきたんですか?」
「違うわよ。いつも、そうなの・・・・私は、綺麗なものが好きなの。」
「じゃ、私は綺麗じゃ無いから、ダメ?」
「・・・・・綺麗かどうか、調べてあげましょうか?」
自分で言った台詞に、赤くなる。
みのりちゃんが、背後に居て、顔を見られないのが幸いだ。
「やっぱり、涼子さんには、かなわない・・・」
みのりちゃんが、ぎゅっと私の体を抱きしめる。
みのりちゃんは、15歳も年下で、性格はKYだし、貧乏性だし、片づけも出来ないし、仕事も出来ないし、その上、婚約者がいるのよ・・・。
良いのは外見だけ・・・
そう自分を戒める声が、空しく響く。
私は、ただの「メンクイ」。
こんなに、体が熱く火照るのも、単なる欲求不満なだけ。
そう、「愛」なんかじゃないのよ・・・・・・・・・・・・・・
タッチダウンする轟音が、体の奥底まで、響き渡る・・・・・
私の心の声も、かき消されていった。
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