どうせ私は、「メンクイ」です

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翌朝の通勤列車で、偶然、みのりちゃんと乗り合わせた。 「涼子さん、昨日は、何処かに、行きましたか?」 低血圧のせいか、眠そうに、みのりちゃんが、私の横に並んできて尋ねた。 まさか、レズビアンバーに行っていたとは、口が裂けても言えない。 「ちょっとだけ飲んで帰ったわ。みのりちゃんは?」 「涼子さんは、お酒強いんですよね。私は駄目で・・・それに、もったいないじゃないですか、飲み物に、そんなお金かけるなんて」 そうだ、みのりちゃんをみんなが避ける原因の一つが、この外見に似合わない「貧乏発言」 とにかく、お金を使わない。 大好きなUFOキャッチャーには使うらしいけれど、1000円までと決めているらしいし、それを破る事もない。 お金に、ストイックすぎるほど、ストイックなのだ。 お洒落にも、お金を使わない。 スーツは、2着を交互に。 お気に入りの1着は、問屋街で買ったという、グレーチェックの500円のスーツ。 体のラインから完全に浮いているが、「500円」というのが、一番のお気に入りの理由らしい。 飲み会は、タダで無いと参加しないし、ランチの後の「お茶」も付き合わない。 社内の打ち上げの後、残ったお菓子やお箸を袋に入れて、全部持って帰ったときには、誰もがあきれた。 何が、そこまで「ケチ」にさせたのか・・・・・・・ 今日は、もう1着の、面接用に買ったという、黒の安っぽいリクルートスーツ。 これも、安物らしいラインなので、体から微妙に浮いている。 それでも、スタイルの良さがわかるから、尚更、不自然さが浮き出てしまう。 乗客が増えて、体がおされ、ぴったりと、みのりちゃんの体に張り付いてしまい、 「ご・・・ごめんね」 と、小さな声で言う。 「いいですよ、涼子さんなら。オッサンやブスは嫌ですけど。ブスとか、ハゲとかチビとか、ほんと、最低ですよね。」 そんな差別発言にすら、『特別感』を探してしまう、悲しい自分がいた。 嬉しい・・・でもね、みのりちゃん。 周囲の、視線が冷たいの。気づいて。
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