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「ねぇ聞いてるの?本当に耳ついてるの?」
これは夢?それとも幻?付き合い始めて一週間、最初のうちはにこにこ優しかった八王子くんの様子がなんだか最近おかしいのだ。
「ごめんね八王子くん、ぼーっとしててよく聞こえなかった」
「はぁ?それでなくてもぼけっとしてるのに今以上ぼーっとしてどうすんの?そんなんだとそのうち車に轢かれるよ?」
「うん、ごめんね……」
数日前から八王子くんの私に対する当たりが厳しい。私は何も心当たりがないのだけれど、彼に対して無意識に何か悪いことをしてしまったのだろうか。
「ほんっとさー高崎って鈍いよね」
「ごめんね、えへへ」
鈍いだのどんくさいだのは昔から言われ慣れているので否定できない。何もそこまで言わなくてもと思うことも多いけど、私は空気の読めないところがあるから知らないうちに八王子くんをイラつかせたり傷つけているのかもしれないし、そう思うと笑って謝ることしかできなかった。なにより、ずっと好きだった八王子くんに嫌われたくないし。
「どうして肝心な事にはいっつも気付かないのかな」
八王子くんはいつにも増してイライラしているように見えた。だけど私にはその原因がわからないのでどうすることもできない。もしかしたらこっちが本当の八王子くんの姿だったのかな。王子様みたいな八王子くんは私の幻想にすぎなかったのかな。そもそも八王子くんはなんで私の告白を受け入れてくれたんだろう。そんなことをぐるぐると考えていた私に、八王子くんはこう言った。
「高崎って僕のこと別にそんな好きじゃないでしょ?」
はい?
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