明治横濱ものがたり

1/14
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ

明治横濱ものがたり

 夜が来る。山が、海が、街が、闇に包まれる。  幼子でも知っている当たり前の事実。  戊辰の戦から5年。  そんな当たり前の夜の闇が、光に包まれる日がやってくる―――  横浜生まれ横浜育ち。そう言うと、江戸――そうだ、もう東京って言うんだった。東京の人でさえ、羨ましがるだろう。  ここには日本で一番新しいものが集まる。  なんて言っても、全部異国から持ってきたものばかり。西洋では、そういうものが人々の生活に溶け込んでいるらしい。  西洋西洋ってみんなうるさい。  新しい”政府”っていう薩長(さっちょう)の人たちは「尊王攘夷(そんのうじょうい)」を掲げていたんじゃないの?  だったら、早く異人なんか追い出してよ。 「Hi! Do you live in neighborhood?」  ちょっとした買い物に行くだけでもこのわけのわからない言葉で彼らは話しかけてくる。鬼みたいに大きな鼻で、ぎょろりとした目で。  知り合いでもないのに、馴れ馴れしいったらありゃしない。  私は妹の千代を連れて一目散に逃げ出した。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!