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「最近、日本にもたくさんドレスが入ってきていて、私たちみたいな庶民にも買えるくらいの値段になってきてるのよ。ふみちゃんもどう?」
嬉しそうに笑う春ちゃんに向かって、しかめ面が表に出ないように顔に力を入れる。私は「異人嫌い派」の最後の1人になっても、「攘夷」を主張してみせる。
「そうね。でも千代もまだ小さいし、私の着物にお金を回す余裕はないわ」
「そう。残念ね。でも、来月のガス灯の点灯は見に行くでしょう?」
「何?」
「知らないの?ガス灯の点灯よ。この、今周りに立ってる棒のこと何だと思ってたの?」
クスクスと笑う春ちゃんをよそに、私はあたりを見回した。
確かに、ここ最近この通りには整えられた木のようなものがタケノコみたいな速さで立っていた。でも、それが何かなんて気にしたことなかった。
「ねえねえ、がすとうって何ー?」千代が無邪気に春ちゃんに尋ねる。
「あの棒の上にびいどろの箱みたいなものが乗っているでしょう?あれに明かりが灯るのよ。行灯の何倍も明るいって言われてるんだから」
「へぇ!すごい!お姉ちゃん、わたし、”がすとう”が見たいよ!」
「ダメよ。夜は出歩かないって約束でしょ」
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