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武家の子で、自分が好きになれる人と一緒になれるわけではないこの時代。それなりに年がいった人でも、色恋というのはよく分からなかったものなのである。
でもかなは、この“色恋”というものに憧れ始めるのである。
「そんな年上など嫌じゃあ! 」
かなは思った。そんな年上の人と色恋なんてあり得ないと。
「何を言っているのですかぁ! 女子はお家の為に尽くすが武士の習い。お家の為とは女子は昔から嫁入りと決まっておりまする」
加倉がそう言うもかなは、
「知らん知らん! 」
と大きく首を振っていた。
「まぁ~何という事! 宜しいですか姫様。太閤殿下が亡くなられ、今や国は戦国時代へともどりつつあります。だからこそお家を守る為には、徳川家康様とたもとを分かち合わなくてはなりません。その為には徳川家康様からの申し出は断る事などできませぬ」
「ううううう」
かなはうなっていた。なぜ自分の思うように生きられない。もうかなに選択の余地などないのです。それも世の為、人の為、お家の為であればこそ。
それから数日が経過したある日。かなは鏡に向かって小袖を合わしていた。文はそんなかなと楽しく話していた。本当の友のように。
「どうじゃこれなら」
「ようございます」
かなは赤や白に青とたくさんの色にカスミソウがあしらった、大変派手な小袖を身にまとっていた。
そこに加倉が入って来て、せかせかと話し始めた。
「かな姫様は何をされているのですかぁ。もうすぐ兄上が帰ってこられるというに、また鏡とにらめっこばかり。嫁入り前の娘がなんたる様でございましょうやぁ~」
相変わらず加倉はガミガミと言ってくる。
「ええいやかましい! 」
かなは足をバタバタさせながら叫んでいた。
「まぁ~、なんとる態度でございましょうや~。文、あなたがついていながら」
加倉が文を怒ると、文は頭も下げた。
「申し訳ございませぬ」
その時だった。他の女中が急いで入って来て、ひざをついた。
「申し上げます」
「なんじゃ? 」
かなではなく加倉が、このタイミングで話しかけるなと言わんばかりのきつい目でその女中を睨んだ。
「あ・・・その・・」
あまりの迫力にその女中は言葉を失った。
「はっきりせぬかぁ! 」
「はい! 」
加倉に罵倒され、その女中は背筋がピンとなって答えた。
「い・・・今しがた、若様がご帰還されました」
それを聞くと、かなは嬉しそうな声で叫んだ。
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