表と裏の鏡合わせ──カヅキ

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テレビで見た踊っているダンサーに目を奪われた。 小さい頃は教育番組の体操のお兄さんになりたかったけど、ダンサーを見てから、夢は世界一のダンサーになることに変わった。 ダンサーの真似をしたくて、髪の毛の色を変えたくて、マジックで塗ろうとして、母ちゃんにメチャクチャ怒られて、その日は婆ちゃんの布団で婆ちゃんと一緒に寝た。 案の定、オネショして、また母ちゃんに怒られた。 婆ちゃんはにこにこして「男の子はオネショくらい普通普通」と言って、布団を干してシーツを洗濯してた。 卒園式が近くなった頃、ダンサーの真似をしようとして、足を滑らせて登っていたジャングルジムから落下して、骨折はしなかったけど、足の骨にヒビが入って、腕は打撲と擦り傷で散々だった。 病院で加奈子先生が母ちゃんに泣いて謝っていたけど、やっぱりオレが怒られた。 元気で友達と遊んだり、幼稚園のダンスの時間が好きなオレ。 ずっと好きなことをやっていくんだと思っていたし、それが当然だと思っていた。 でも、夢を叶えることは少しずつ諦めに変わっていってしまったんだ。 「吉祥(キチジョウ)、お前今度の体育祭のダンスは一番前で踊れよ!」
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