表と裏の鏡合わせ──カヅキ

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受験シーズンがきても、オレはダンスをやめずに好きなように毎日踊っていた時、仲良くしていた先輩がケガをしてダンスをやめることになった。 もうプロとして世界に通用してもおかしくない人で、オレの目標でもあった人だ。 オレと同じくらい、それ以上にダンスが好きな人で、それがもうできないなんて、どれだけ苦しいのか想像もしたくなかった。 「先輩、その…大丈夫ですか?」 「リハビリすりゃ、普通の生活に戻れるってさ。ダンスはもう諦めるしかないけどな」 「先輩…」 「香月(カヅキ)、お前はずっとダンス続けろ。脚が千切れて腕が吹っ飛んでも、意識がなくなっても踊れ。ダンスは楽しむだけじゃなくて、自分の一部と思って踊れ。そう思って踊れば、お前の本来の姿は誰でも虜にする。お前のダンスは天性のものだから、たくさんの人に見てもらえ」 「……はい!」 「あ~真面目なこと言うと疲れるわ。俺ちょっと寝るわ。せっかく見舞いにきてくれたのに悪いな」 「こっちこそ、すんません。ゆっくり休んでください。それじゃ失礼します」 先輩の病室のドアを閉めた途端に、病室の中から嗚咽が聞こえた。 オレもその場で涙を流したけど、乱暴に拭って病院を後にした。
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