野心家の哀歌──コトチカ

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小さい頃から、ずっと和楽器に触れていた。 和楽器は弾けて当然で、引けない奴は才能も資質もない上に努力もしない。 それが普通だと思っていた。 中学生になってからは、部活は一切やらずに和楽器の稽古と、跡取りとしての一通りの和楽器に対する知識と教養を父から習い、俺は進学よりも家を継いで和楽器をもっと盛り立てていきたいと考えるようになった。 「え、琴周(コトチカ)は進学しないの?」 「まだ本決まりじゃねーけど、学校より楽器と一日触れ合ってる方がいいなと思ってさ」 「進学した方がいいと思うけどね。琴周のかなり先を考えたら、高校に行きながら楽器の勉強の方が絶対いいと思う、うん」 「"絶対"なんて有り得ない。ってか、お前さ…もう少し男らしくしろよ。俺の彼女と思われるのマジで苦痛だし勘弁してくれ」 「やだ。男とか女でしか判断しない奴とは、アタシは分かり合えないと思ってるから。アタシは"橘 碧伊(タチバナ アオイ)"という一人の人間として接してくれる人と一緒にいたい」 「じゃ、俺とは分かり合えないな♪」 「バカ?琴周はアタシのことをちゃんと橘 碧伊として見てるじゃない。あんたは物事の本質を見抜く目は確かだって分かってるから一緒にいるのよ」
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