野心家の哀歌──コトチカ

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少しずつ受験という言葉が現実味を帯びてきて、俺も進路希望を書くプリントが配られた。 みんな真剣に希望校を書いているようだが、俺は進学か和楽器奏者の道を進むか、まだ決めかねていた。 最初は進学しなくてもいいと思ってたのに、碧伊の言葉がずっと引っ掛かっていて、両方の気持ちがせめぎ合ってしまい、進路希望のプリントは白紙で提出した。 どちらも第一希望で、第二第三なんて決められない。 ただギリギリで決めてもいいかとも思った。 焦って受験勉強なんてしなくても、大体の高校なら受かると確信していたし。 そりゃ進学校の特進科だったら難しいだろうけど、別に普通科でいいし、そこまでして勉強したいとは思わない。 俺がしたい勉強は、家をどう盛り立てていくかってことで、教科書とノート開いての勉強じゃないんだよな。 ……やっぱり進学はしないで、和楽器を極める道に進んだ方がいいかもしれない。 俺もいつかは今の両親のように弟子を抱える身になるだろう。 お弟子さん達は、本当に両親を慕っていて、俺にも優しくしてくれる。 それに期待もしてくれてる。 だったら期待に応えたいと思うじゃないか。 そこまで考えると、進学はしない方向で行こうかなと少しずつまとまってきた。
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