初めての音──レイヤ

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ある日、ぼんやりテレビを見ていた時に、たぶんジュニアアイドルなんだと思うけど、一人だけ浮かない感じがする子に釘付けになった。 笑顔でも、本当の気持ちを隠しているような感じ。 だけど画面越しで、テレビの音が大きく聴こえすぎて彼がどんな音を発しているか分からない。 対象の音は実際に目の前にいないと聴こえない。 彼に会ってみたいけど、音が聴きたいだけなんて理由じゃ会えないだろうし、絶対に変な人だと思われる。 MAKOTOに頼むのも違うような気がするし…。 この時は知らなかったけど、まさかあのジュニアアイドルがリョージだったなんてね。 縁は不思議でいつも俺を包み込む優しい音する。 だから縁は大切にしたいなと思う。 世界は音だけでしかできていないと気付いたのは、母さんが亡くなって骨になって、小さな壺に入ってからだった。 悲しみと驚きが音として伝わった時、全てが音としか認識できなくなった。 色も匂いも味も分かるのに、それらよりも音の海に潜っている方が、何もかもがダイレクトに伝わってきて、俺の鼓膜と心を心地よく揺らしてくれて、ずっとここにいたいと思わせてくれる。 その思いは止まることを知らず、俺は食事さえも音としてしか認識できなくて、食事を忘れることが増えていた。
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