初めての音──レイヤ

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夏休みと冬休み、春休みは実家に帰ってもよかったけど、俺は春休みは寮に残っていたし、夏休みと冬休みも一日帰って、すぐ寮に戻っていた。 理由は父さんと会いたくなかったからだ。 MAKOTOが芸能界から電撃引退し、行方をくらまして消息が掴めなくなっていた。 その原因が父さんだったことは容易に想像がついた。 あれだけの美貌を持っていて、しかも男なら急な身体変化もない。 だから、愛人にしようと迫って、MAKOTOはそれが嫌で逃げて行ったんだろう。 この時点で、MAKOTOは俺の後見人じゃなくなっていたし、俺は相続放棄の書類を作成して、父さんに叩き付けて寮へと戻った。 お小遣いの仕送りはなくなったが、俺は自分の口座を作って、昔からのお小遣いやお年玉は全部貯金していたから、特に困らなかった。 口座を作った方がいいと教えてくれたのは、他の誰でもないMAKOTOだった。 お金がいかに大切かということを何度も丁寧に説明してくれて、お金の回し方も話してくれていたから、この状態も困難でも何でもなかった。 卒業後の進路は一人で決めようと思って、進路希望を一度白紙に戻して、フリーターから始めてみようかと思った。
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