野心家の哀歌──コトチカ

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「え?本当に進学しない!?」 「どう考えても家で和楽器に触れていた方がいいと思ったんだよ。別に高校でやりたいこともないし」 「もったいない。琴周は本当に跡取りになるのが夢なの?周りから期待されてることを夢に変換しちゃってる感じもするけど、期待に応えることは夢じゃないからね」 「将来アイドルになる奴の台詞とは思えないな。アイドルはファンの期待に応えないとダメなんじゃないか?」 「アイドルに完璧を求める人が多いのは事実。アイドルは夢や理想を具現化したものだから。アイドルは偶像って意味だしね。でも、それが現実に生きている人間だと分かると、完璧を求められない。自分だって完璧じゃないと気付くから、期待はそれ相応までにしかならないのよ」 「さっぱり分からん」 「つまり、あんたみたいに過剰な期待はされないから、多少は楽ってこと♪」 「ふーん…」 本当は碧伊の言ってることの意味は分かってはいたけど、それを認めると自分が小さい奴だなと思って、つい分からないと言ってしまった。 俺も碧伊もコンプレックスを言い訳と開き直りの鎧でガチガチに固めて、何とか立ちはだかる壁を登ってきた。 どうやって登ったかは覚えてないけどさ。
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