声を忘れた天使──リョージ

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「なら、仕方がない。しっかりと勉強をやり直して受験に備えなさい。先方には陵治の欠席を伝えておこう」 「すみません」 お父さんに頭を下げながら、お姉さんとこっそりアイコンタクトを取り、口元に笑みを浮かべてすぐに消した。 「お父さん、轟グループからは誰がくるの?」 「轟社長と確か秘書の弓槻さんだったかな?息子の零也くんは寮生なので出られないそうだ。お前の婿候補にしたかったが、それはいずれということだな」 「それは残念ね。お会いしてみたかったわ」 お姉さんの言葉は社交辞令だとすぐに分かった。 だってお姉さんの好みの男性は、十年前くらいに映画でほとんど主役で、たくさんの賞を取った、伝説の映画俳優・渚 天馬(ナギサ テンマ)なんだから。 僕もDVD化された映画しか見てないけど、子供心に凄い人だと思ったしオーラが違いすぎた。 相手役の女性アイドルも堂々としていて、役の上の恋人とは言え、とってもお似合いだと思っていたら、本当に夫婦だったし、そういうのも伝説なんだろうなと思ったり。 ここでぼんやりしていると、お父さんから聞きたくない小言が飛んできそうで、僕はそそくさと自室に引っ込んだ。
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