導入文。暑い夏の日に見た花火

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立ち並ぶマンション、アパートの向こう。藍色の空の淵、光る花火。赤いそれは二度目の落日を思わせた。 今日が終わる。 過去最高とニュースが喚き立てる連日の猛暑。今日も最高気温は体温より高かった。 コーヒーの販売を主体とするカフェチェーン店から一歩出れば、そこはまさに地獄だった。数分と経たずこめかみを汗が伝う。立ち込める熱は痛覚を刺激するほどに鋭い。 滝のような汗をぬぐいながら皆、足早に歩いている。 私が握る買ったばかりのアイスコーヒーは、道行く人のように汗を滴らせて涼しげだ。 この世界がもう少しだけゆっくりと流れて、もう少しだけ優しければいいのに。そんなことを思いながら、私は地下鉄の入り口を下って行った。
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