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二年前に役目を終えたにもかかわらず未だに取り壊されることなく老醜を晒しているその廃会場を囲う塀のすぐそばには簡素なベンチがあった。俺の待ち人はそこに腰掛けながら錆びの浮いた工場の外観を眺めているようだった。
「もう終わっちまったくせに無様に永らえてるモン、見てたって不快なだけだろ?」
彼は俺に気づくと小さく喉を鳴らした。
「おぅおぅ、辛辣ゥ。だけど、終わりったってそんなんはただの会社の都合だろ?こいつはまだ終わってない、そう自分では思っているかもしれないだろう」
「驚いた」
俺は思わずつぶやいた。
「あんたが無機物に命を見出す類の脳足りんだとは思わなかった」
「なんだなんだ?惚れたか」
「死ね」
なるべく感情をこめずに俺は吐き捨てた。すると奴は再び愉快そうに喉を引き攣らせた。
「まあそういうな。何が始まりで終わりかなんてのは自分で決める物であるべきだ。他人に決めつけられてたまるかよ。なあ、お前なら解るだろう?」
己の芯を咬まれた様な錯覚に陥り無意識に半歩後退っていた。そんな俺を意にも介さず彼はベンチから立ち上がった。
「んじゃ、行こうか相棒。いっちょ今夜もセーギの味方になろうや、背中は預けたぜ!!」
ケタケタと笑い声を上げながら繁華街の灯へと向かう彼を追いかけた。
「ああ分ってる。任せてくれ『アイスマン』」
俺が彼、アイスマンと出会ったのは一月前の真夜中だった。
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