Iceman

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「大体さ、俺とは違ってお前には学校もあれば、明日だってあるんだから、自分のために時間を使いなよ」 「智樹にだって!!」  寸毫の間もなく詩織は声を荒げた。 「明日は、あるよ」  だけれどもその言葉は語尾に向かうにつれ段々と力が抜けていき夕暮れの薄ら闇の中に溶けていった。 「本当に」  俺は詩織の瞳を覗き込んだ。 「本当にそう思うか?」  彼女は口をつぐんだ。 「……ごめん、なさい」  何故だろう分り切っていた返答なのに、その言葉はまだじゅくじゅくと膿んでいる心の疵口を舐めた。 「智ちゃん。ごめん。今日は帰るね」  顔を伏せたまま去っていく彼女がどんな表情をしているのか、その顔は夕闇に霞んで見えなかった。控えめに閉じられたドアの気遣いのように小さな開閉音が、それが腫物扱いのようでまた心が軋んだ。 ――智ちゃんにも明日はあるよ  お為ごかしが心の空洞に反響する。 「当たり前だ」  現実をかみ殺すように吐き捨てた。  日が暮れる。  今日が終わる。  一日と共に様々なものが今日も終わる。  終わりの淵に立ったまま、絶望を吐瀉するように現実を噛み殺し続けた。 「俺は終わってない。俺は断じて、終わってなんて、いないんだ」
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