Iceman

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 高校に入ってボクシング部に入って、新人歓迎のスパーリングで部長を殴り倒して俺は一年生エースとなった。だけど、考えれば年季が違うんだからそんなの当たり前で。もちろん悪い気はしないけど。でも足りなかった。  地区予選で当たった相手を全員殴り倒しても変わらなかった。何も変わらずに飢えて、渇いていた。インターハイでも順調に勝ち上がったが準々決勝で判定負けに喫した。ただそれは技術を駆使された結果で別に殴り倒されたわけでもないのに心臓を掻きむしられたような思いで勝者を睨みつけた。騒ぎはしないだが、次は食らうと誓った。  ただ、一年生でインターハイ準優勝という結果に詩織が「智ちゃんは強いね」と笑った、その笑顔に心が疼いた。何故だろう鼓動が高鳴った。  いつの間にか『氷の男(アイスマン)』という仇名を付けられた。まあ呼び名なんて好きにしろと鼻を鳴らすと詩織は「そういうところだよ」とクスクス笑った。それが、くすぐったかった。  次は勝つと、誓い己のすべてを拳に乗せて練習に打ち込んだ。そして二年の春予選を勝ち抜いた直後に、俺は網膜剥離を患っていることが判明した。  それほど打たれたわけじゃない。ただ、両親も祖父母も目が悪い。代々目が弱い家系だったのだろう。  だからこの話は単純に、俺は望む生き方に対する適性を持たなかったという、ただそれだけの話なのだ。  医者は静かに言った。 「君は終わりだよ」     
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