Iceman

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  諦められるわけがない。強さが欲しい。血を吐くように叫んでいる。終わってない。終わりなんてない。心に穿たれた伽藍洞の虚しさに震えるほどに怯えながら。  だから俺は今も死線に身を投じている。強さの証を立てる。その目的のためならリングすらどうでもよかった。  アイスマンに連れてこられた密売人たちの溜まり場では当然ながら過去最大の戦いとなった。数が多いうえに道具も揃っている。敵戦力は過去最強。  だがその程度、相手にもならない。ナイフを握られたところで彼我の戦力差は覆らない。伸びた射程を勘定に入れて立ち回ればそもそも素人の攻撃など掠りもしないのだから完封すら容易い。  すぐに毎晩と同じように全員を沈めてやった。  しかし油断があった。だから俺は背後で動く影に気づかなかった。 「おいッ、後ろ!!」  アイスマンの声に弾かれたように身を捻って上体を屈めた。同時に爆せる銃声、そして耳をかすめる衝撃と灼熱感。しかし構わずに背後へと殴り掛かり射手を殴り飛ばした。 「仕留めそこなってたみたいだね」  呆れた様子のアイスマンにぐうの音も出なかった。 「まあ、反撃も躱せた訳だし……」  俺の言い訳に奴は耳を指さした。その自分の耳を触ってみると生暖かく滑っていた。どうやら耳たぶが弾丸で千切られたようだった。 「油断すんなよ。多分、次回は本丸だ」     
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