墓参り

2/5
4121人が本棚に入れています
本棚に追加
/319ページ
「なんで待っててくれなかったんです? 一緒に行くって言ってあったでしょうに」 憮然とした声が聞こえてきて俺は 顔を上げると苦味を潰したような表情の男が ドアの前に腕を組みながら立っていた。 長身で外目からも鍛え上げているのが分かる 肉体を高価なスーツで纏い オールバックの艶々しい黒髪に灰色の眼は 細めのスチール製の 眼鏡で隠されている。 仄かな色気はキケンな香り。。。 カウンターに肘をつきぼんやりそんな事を 考えながらじっと見つめていると 男はツカツカと近づき俺の額にデコピンを 食らわした。 「・・ッ・・イタっ!」 「聞いてんのか?オヤジのとこに行くなら 一緒に行くって言ってあったでしょう」 「あー そうだったっけ。。」 ヒリヒリする額をさすりながら不満げな顔を 窺い見る。 柏木元。 正真正銘のヤクザだ。 柏木組の御曹司。学生の頃は跡目はつがないと 文字通り反抗期に反抗しまくっていたが 今やすっかりモノホンだ。 子供の頃からあらゆる武道をやり サラブレッドはすくすくと成長を遂げている。 もとから親分肌な性格で真っ直ぐな気性は人を 惹きつけ 元の周りは昔から奴を慕う者で いっぱいだ。 「景?」イライラと俺を呼ぶ声も昔から 何も変わらない 。 でもその瞳は 子供の頃よりずっとクールだ。 俺と元は幼馴染だ。 というか兄弟に近い。 両親が亡くなり柏木組の組長辰雄に 引き取られたのは4歳ぐらいで その頃の記憶はあまりなく 連れてこられた 大きな日本家屋を前に今日から知らない人たちと 暮らさなければいけないのかと漠然と不安に 思った事を覚えているくらいだ。 元は俺が引き取られた家に居た赤ん坊だった。 柔らかそうなほっぺが珍しく 思わずそっと 手を差し伸べると元は俺の指をぎゅっと握り 引き離そうとしても全く離さなかった。 それから奴はずっと俺から離れない。 雛鳥が初めて見たものを親だと思うかのように。
/319ページ

最初のコメントを投稿しよう!