2/10
前へ
/319ページ
次へ
俺は警察を辞めた。 まぁもちろん自分で辞めなくとも 自主退職を促されるか 地方に飛ばされただろう。 単独行動ばかりで あちこちに火種を作る景は既に 立派な目の上のたんこぶだった。 結局 遠藤の消息は掴めなかった。 警察官である方が身動き取りづらい事も よくわかった。 裏社会と対峙出来るのは お上ではない。 同じ社会に身を置くものだ。 だからといって今更 ヤクザにはなれない。 辰雄に受け取って貰えなかった貯金は 以降も着々と増えた。 もともと物欲も無いのだ。 趣味も無く 欲しいものもなく ただゆらゆらと生きているように見える 景を友人達は心配していた。 普段は明るくて元気な景だが 何かをやりたいとかあれが欲しいとか 聞いたことが無いと。 進路を警察官に決めたと言うと皆意外そうな 顔をし 「夢だったの?良かったね!」と 言った。あからさまにホッとする奴もいた。 夢。 まぁ夢だったのかもしれない。 結局 自らの手で全てをぶち壊して しまったけれど。 きっとこれからも辰雄は金を受け取らないだろう。 「学費を全て払ったって事が唯一あんたと オヤジのつながりです。 無理に壊したら 可哀想だ。」 タバコを燻らせながら遠くに目をやり 元は俺にそう言った。 そうかもしれない。ずっと大事に 育ててくれた柏木の人達に 俺はずっと背を向けていたのかもしれない。 貯めたお金は 新しく開く喫茶店の 資金に充てた。 その一方で俺は新しい名刺を作る。 「真壁探偵事務所」 俺は諦めなかった。
/319ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4164人が本棚に入れています
本棚に追加