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ボロボロの景を抱きしめた時 全身の毛穴から血が吹き出すかと思った。 グッタリと意識を飛ばしていく景の 顔を見る。 ポツリと言葉が無意識に吐き出される。 「・・・あんたはそんなに死にたいのか・・」と。 警察官になるため 景は柏木の家との 関係を切った。 だが 俺は嫌がられても 拒絶されても 景のそばを離れなかった。 あの日俺は誓った。 必ず届いてみせると。 景は困ったような顔をして だが ある日諦めて俺を拒絶することをやめた。 合鍵を勝手に作り 家に入る。 殺風景で必要最低限の物しかない 景のマンションで帰りを待つ。 景はドアを開け ソファーに座る俺の姿を 見つけるとちょっと怒った顔をして 「不法侵入だ」と笑った。 刑事になってからの景は どんどんやつれ その眼は輝きを無くしていた。 ウロウロと深夜繁華街を歩き回り あちこちで小さなゴタゴタを起こして いる事も知っていた。 「景兄は 遠藤と言う男を探しているようです。 政友会のチンピラですが もう 何十年も前から音沙汰なく 死んでると 思ってる奴も多いですぜ。 無理なんじゃないかなぁ。。」 舎弟の龍はため息と共に最後の一文を 呟いた。 心配しているのである。 龍にとっても景は兄のような存在だ。 叱られ泣いているまだ若い龍の頭を 黙ってよく撫でていた景を俺は何度も見ている。
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